フィラリア症をご存知でしょうか。春に動物病院に行くと、必ずフィラリア症の予防について聞かれないですか?ワンちゃんにとって、それほど重要な感染症なんです。
フィラリア症について知識を深め、正しい予防を行いましょう。
フィラリア症の概要
フィラリア症とは、フィラリア(犬糸状虫:Dirofilaria immitis )の感染によるものです。フィラリア症に感染した犬を吸血した蚊が、別の犬を吸血し、感染が広がります。犬の心臓や肺に寄生し死亡する可能性もある恐ろしい感染症です。
フィラリアの生活環
犬から蚊に感染
まず犬の心臓や肺に寄生したフィラリアの成虫は、ミクロフィラリアという幼虫を血液中に生みます。その血液が全身を循環し、ミクロフィラリア血症となります。その血液を蚊が吸血することで、フィラリアに感染します。
蚊の体内で感染幼虫に成長する
蚊に感染したばかりのミクロフィラリアは、L1幼虫と呼ばれます。そして蚊の体内でL1→L2→L3幼虫(感染幼虫)まで成長します。この成長スピードは環境温度に依存しています。14℃〜38℃の間で成長することができ、最適な温度は25℃〜28℃で、10日〜14日で感染幼虫に成長すると言われています。
蚊から別の犬に感染する
L3幼虫をもつ蚊によって吸血された犬がフィラリアに感染します。L3は皮膚から体内に侵入します。感染後3日〜12日にはL4幼虫となり皮下組織や筋線維間を移動します。感染後50日〜70日でL5幼虫となり血管系へ侵入し、心臓や肺に寄生します。感染後、約120日で成虫となりミクロフィラリアを産出し始めます。
フィラリア症の症状
感染初期は無症状です。感染が進行すると症状が出始めます。最初は「時々乾いた咳をする」くらいですが、症状が進行すると元気がなくなり運動を嫌がるようになります。やがてお腹に水が溜まったり、失神することもあります。
主な症状
- 乾いた咳をする
- 運動を嫌がる
- 元気食欲が無くなる
- 腹水が溜まる
- 呼吸困難
- 失神
フィラリア予防をしておらず、ワンちゃんの異変を感じた場合はすぐに動物病院を受診しましょう。何よりも大切なのはフィラリアに感染しないように予防をすることです。
フィラリアの予防法
世間的にはフィラリア予防薬と言われていますが、厳密には蚊に刺されないように予防するわけではありません。体内のフィラリア幼虫を駆虫する薬になります。
まずフィラリアに感染してないか検査します
予防薬を投与する前に必須の検査となります。検査自体は少量の血液で簡単に行うことができます。
先ほども説明した通り、予防薬はミクロフィラリアを駆虫する薬になります。体内にミクロフィラリアがいるのに気づかず駆虫してしまうと、一度に大量のミクロフィラリアが死に、ショック状態となってしまい、最悪の場合は死に至ります。
予防薬には経口薬・滴下剤・注射薬の3パターンがあります
経口薬の場合は毎月1回、5月〜12月に投薬します。錠剤タイプもあれば、チュアブル(おやつ)タイプもあります。
どうして5月〜12月なんですか?
「蚊が発生し始める1ヶ月後〜蚊がいなくなる1ヶ月後」だと思ってください。厳密にいうと、フィラリアのお薬は「ミクロフィラリア」「L3 」「L4」に効果があります。L5には効果が十分ではありません。L5幼虫に成長する前(=感染して約1ヶ月の間)に投薬すれば良いということになります。蚊は早くて4月〜遅くて11月に活動します。なので5月〜12月まで月に一度の投薬が必要となるわけです。忘れずに飲ませましょう。
「毎月1日に飲ませる」など、日付を決めておくと忘れづらいですよ!
滴下剤は食物アレルギーがある子、経口剤を食べてくれない子に適しているでしょう。こちらも毎月1回の塗布が必要となります。
注射薬は年に1度の投薬で予防が可能です。毎月投与の必要がないので、投与のし忘れが無いことがメリットでしょう。しかし、体重によって投与量が決まるため、体重変化の大きい成長期のワンちゃんには使用できません。また、注射薬でアレルギー症状が出る可能性があります。注射した日は体調の変化を観察しましょう。
ワンちゃんのライフステージ、嗜好性、飼い主の性格など、総合的に考えて投与法を決めましょう。また、動物病院によって取り扱う予防薬が異なりますし、投薬期間は蚊の出現時期によって変わってきますので、地域によって異なる場合がありますので、詳しくはかかりつけの獣医さんに聞いてみてください。
コリー種にイベルメクチンは危険です
コリー種(ボーダーコリー、シェルティ、オーストラリアンシェパードなど)は、遺伝子的にイベルメクチンに対して副作用が出やすい犬種です。全ての個体で副作用が出る訳ではありませんが、避ける方が安心でしょう。
コリー種に使える薬剤は、有効成分がミルベマイシンオキシム、モキシデクチン、セラメクチンのものとなります。
フィラリアに感染した場合
フィラリア症に感染してしまった場合は、寄生数、臨床症状の程度、動物の全身状態などを総合的に判断して決めることになります。
外科手術
頸動脈から鉗子を使用して寄生している成虫を釣り出します。血液検査で麻酔をかけることができる状態に限ります。
駆虫薬の投与
成虫を駆虫する薬を投与します。一度に大量のフィラリアが死滅すると、肺血管に詰まりアナフィラキシーショックを引き起こす恐れがあるため、慎重な投与が必要となります。
※成虫駆虫薬は、現在日本での販売は中止となっており、在庫のある動物病院も限られているかと思われます。
フィラリア予防薬の投与
寄生している成虫が少ない場合は、フィラリア予防薬を投与する方法があります。幼虫は駆虫し、成虫は寿命を待つ方法です。駆虫する際にアナフィラキシーショックを起こす可能性があるため、ステロイドも一緒に投薬します。成虫の寿命は約5年と長いため、治療は長期間に及びます。
また、フィラリアの体内に存在するボルバキアという細菌に対して、テトラサイクリン系の抗生物質を一緒に投薬することもあります。ボルバキアが死滅するとフィラリアも弱ります。
しっかりと検査キットで陰性を確認するまで、獣医さんの指導のもとで投薬を行いましょう。
犬から人に感染する?
犬から人に直接感染する事はありません。しかし、犬糸状虫が蚊を介して人に感染する場合があります。人は本来の宿主ではないため、感染してもほぼ成虫にならず、幼虫で死滅します。無症状のことが多いですが、咳や発熱が認められることもあります。
まとめ
フィラリア症はしっかり予防すれば感染を防ぐことができます。いつどこで蚊に刺されるか分かりません。愛犬の命は飼い主が責任を持って守りましょう!